「ハッキョイ!」
両国千草は、自分の名前をだめだと思う。
なんてったって、「草」だもの。千あっても、万あっても、草は草だ。花じゃない。
苗字もだめだ。だって、「両国」はおすもうさんが多く棲息する界隈の地名とおんなじだ。おすもうさんは、ふんどし一丁で、がぶり寄ったり上手出し投げをするひとたちだ。中一女子としては、まことにやるせない。
そこへもってきて、あだ名がハッキョイだ。
担任の柏木の発言が発端となり、定着してしまった。それは入学式から間もなくのこと。出欠をとられたさい、千草の「はい」は少々投げやりだった。わざとそうした。かったるそうに返事をするほうが恰好いい気がしたからだ。そんな返事をする生徒はほかにもいる。
しかし、柏木は千草のときだけ出席簿から目を上げて、「どうした、両国」といってきた。「ハッキョイ!」と尻上がりに声を張る。「力いっぱいやれよ」という意味らしいが、注意や励ましの言葉ならほかにいくらでもあるはずだ。よりによって「ハッキョイ」を選ぶなんて、柏木のセンスはわるすぎる上に古すぎる。だよねー、と教室を見回したら、全員、柏木と一緒になって笑っていた。